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「三元豚」という札を見て、そういう名前のブランドだと思っていた時期が私にもありました。違います。三元豚は品種名でもブランド名でもなく、血統構成を指す言葉です。三つの品種を掛け合わせて生まれた豚、という意味しかありません。
LWD という記号を読む
日本で流通する豚肉の7〜8割を占めるのが LWD です。順番には意味があります。
- L=ランドレースの雌に、W=大ヨークシャーを掛けて、雑種の雌 LW を作る。これが子取り用の母豚になります。
- その LW 母豚に、D=デュロックの雄を掛ける。
- 生まれた LWD を肥育して出荷する。だいたい生後180〜190日、体重105〜110kgが目安です。
つまり母系の二つは「産む・育てる」担当、父系の一つは「肉にする」担当。ランドレースと大ヨークシャーは多産で乳がよく出る。デュロックはサシが入って体が丈夫。それぞれの得意分野だけを使って、最後の一頭に集めているわけです。
組み合わせは LWD だけではありません。ランドレース・ヨークシャー・バークシャーを掛けた LYB のような構成もあり、同じ三元豚でも味はまるで違います。逆に言えば、血統構成が同じ銘柄どうしの味の違いは、餌と環境で説明がつくということでもあります。
なぜ純粋種で作らないのか
牛と比べて、豚は純粋種の割合が極端に低い。日本の母豚のうち純粋種は1割台にすぎず、食卓に上る豚肉の9割以上が雑種です。理由は二つあります。
① 良いところだけを足し合わせられる
繁殖性・産肉性・肉質は、一つの品種の中では両立しにくい。多産な品種は肉が凡庸で、肉が良い品種は産まないし育つのが遅い。ならば分業させればいい、という発想です。
② 雑種強勢(ヘテロシス)
掛け合わせた仔が、両親のどちらよりも丈夫に育つ現象です。病気に強く、発育が早く、事故が減る。これは足し算ではなく、雑種であること自体から生まれるおまけです。
ゲームの配合判定と、どうつながるか
『PIGVORIA 爆走ブタ伝説』で配合画面を開くと、種豚係が短いひとことを言います。あれは現実の交配理論を、そのまま遊びに落としたものです。
| ゲームの判定 | 現実で言うと |
|---|---|
| 血の重なりはないな | アウトブリード。雑種強勢が効く方向。事故が少ない代わりに、飛び抜けもしにくい |
| ◯◯の3×4クロス | インブリード。優れた祖先の形質を濃く固定しにいく手 |
| 奇跡の血量(18.75%) | 3代前12.5%+4代前6.25%。濃さと危うさの均衡点として語り継がれてきた比率 |
| この父系と母系は相性がいい | ニックス。特定の系統の組み合わせだけ、経験的に良い仔が出る現象 |
| ちょっとこれは危険な配合だな | 血が濃すぎる。繁殖能力や強健性が落ちる、近交退化そのもの |
ここが面白いところで、LWDは「危険な配合」の正反対にある、極めて健全なアウトブリードです。安定して、丈夫で、失敗しない。──そして、突き抜けもしない。
いっぽう、黒豚(バークシャー純粋種)や中ヨークシャーのように純血を守っている世界は、ゲームで言えばずっとインブリードを続けているようなものです。血を濃く保つから味が決まる。そのかわり、産まない・育たない・手間がかかる、という代償を払い続けている。
配合画面で「安全に走る仔を出すか、事故込みで突き抜けを狙うか」と迷ったとき、現実の養豚業界は前者を選び、一部の生産者だけが後者を選び続けている──と思うと、あの選択がすこし違って見えてきます。
面白い交配の例
組み合わせは定番のLWDだけではありません。品種の良いところを引き出そうとして生まれた、変わり種の血統構成もあります。
- TOKYO X ── 北京黒豚 × バークシャー × デュロック。東京都が作った合成品種
- フジキンカ ── 金華豚 × デュロック。金華豚の繊細さに、デュロックの歩留まりを足す(静岡)
- 梅山豚のF1 ── 梅山豚の雌 × デュロックの雄
いずれも「多産だが発育が遅い中国系の母」に「仕上がりの良いデュロックの父」を当てる、という同じ構図です。母系と父系の役割分担という原則は、変わり種でも崩れません。
血統構成の違いを、舌で確かめる
いちばんわかりやすい実験は、ふつうの三元豚(LWD)と、黒豚(バークシャー純粋種)を、同じ料理で食べ比べることです。しゃぶしゃぶかとんかつ用のロースで、同じ厚さ、同じ火入れ。それだけで血統の差が出ます。
① 三元豚(LWD)のロース ── 基準になるほう
② 黒豚(バークシャー純粋種)のロース ── 比べるほう