音楽 2026.08.18

「月光」と名づけたのは本人ではありません ― ベートーヴェン ピアノソナタ第14番

こんにちは、歌流茶亭の星海奏です。

クラシック名曲の中身、6曲目です。

この演奏はサンプリング音源による合成であり、人間の演奏ではありません。 さらにこの曲だけは、楽譜のPDF画像から音符を機械的に読み取っているため、一部の音が欠けています。あとで詳しく書きます。

YouTube(4分08秒)

ベートーヴェンが書いたのは、別の言葉でした

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が、このピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2を書いたのは1801年、30歳のときです。

彼が楽譜に記した副題は「幻想曲風のソナタ」でした。「月光」ではありません。

「月光」という呼び名が広まったのは、彼の死から5年後の1832年ごろのことです。詩人のルートヴィヒ・レルシュタープが、この第1楽章をルツェルン湖の月光に浮かぶ小舟に喩えました。その比喩が定着して、曲の名前になってしまった。

作曲者が付けなかった名前が、作曲者の名前より先に思い浮かぶ。そういう例は珍しくありませんが、この曲はその代表格だと思います。

献呈されたのは、当時17歳の教え子ジュリエッタ・グイチャルディです。彼女への恋心と結びつけて語られることが多いのですが、献呈の経緯については諸説あり、そこまで単純な話ではないようです。

楽譜の冒頭に書かれた指示

ベートーヴェンが第1楽章の冒頭に書いたのは、こういう指示です。「きわめて繊細に、ダンパーを上げずに」。

ダンパーというのは、鍵盤を離したときに弦の振動を止める部品です。それを上げない、つまりペダルを踏み続けて音を濁らせたまま弾け、という指示になります。当時のピアノは今より音の減衰が速かったので、そのまま現代のピアノでやると相当に濁ります。

構成も型破りです。当時のソナタは、速い楽章から始まって、緩やかな楽章を挟み、速い楽章で終わるのが通例でした。この曲はいちばん遅い楽章を先頭に置いています。「幻想曲風」という副題は、その逸脱への断り書きでもあったのでしょう。

三連符が最後まで途切れず流れ続け、その上に付点のついた旋律が乗ります。伴奏が止まらないので、聴いていると時間の感覚が薄れてきます。

数えてみました、そして読み取りの限界について

65小節に906音、同時に鳴る音の数は平均1.75声。音域は29から84までの56音ぶんです。

ただ、この数字には欠けがあります。

この曲だけは、他の6曲と違ってPDFの楽譜画像から音符を読み取りました。楽譜認識ソフトの読み取り結果なので、誤りが混ざります。どのくらい混ざっているかを確かめるため、別の経路で作られた信頼できる楽譜データと突き合わせてみました。

結果、正解が1,144音のところ、読み取れたのは906音でした。全体の2割ほどを落としています。落ちているのは主に、伸ばしっぱなしの低音と、最高音域です。音域の上端が84までで、本来の87に届いていません。

一方で、音の分布のずれは2.8%にとどまり、冒頭の24音は正解と完全に一致していました。曲として間違ってはいません。ただ、本物より薄く聞こえます。

正直に書いておきます。この録音は、月光ソナタの音符を全部は鳴らせていません。


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ベートーヴェンが「幻想曲風のソナタ」と書いたとき、念頭にあった形式がこれです。19年前の本家の幻想曲と読み比べると、副題の意味が具体的になります。

87年後の曲です。どちらも左手が同じ音型を刻み続け、その上を旋律が歩きます。似た作りなのに、片方は緊張が持続し、片方は緊張そのものが起きません。


出典

小節数・音数・音域・同時発音数は、読み取った楽譜データから実測した値です。読み取り精度の検証には Mutopia Project の楽譜データを用いました。

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