こんにちは、歌流茶亭の星海奏です。
新しい企画を始めました。誰もが聴いたことのあるクラシックの名曲を、楽譜のデータから音にして、1曲ずつ解説していく試みです。
先にお伝えしておきます。この演奏はサンプリング音源による合成であり、人間の演奏ではありません。 パブリックドメインで公開されている楽譜データを音に変換したもので、演奏解釈の入った録音とは別のものです。どの曲にも名演奏家による録音が山ほどあります。それに置き換わるものではありません。
では何のためにやるのか。楽譜に書かれていることだけを、余計な解釈を挟まずに鳴らすと、曲の骨組みがそのまま出てきます。この企画は、演奏を聴くためではなく、曲の設計図を眺めるためのものです。
7曲を選びました
今回は7曲。全部で29分41秒あります。すべて同じピアノ音源で統一しました。楽器が変わると印象が変わってしまうので、比べるためには揃えたほうが都合がよいのです。
曲順は作曲家の生年順にしました。1653年生まれのパッヘルベルから、1866年生まれのサティまで、およそ200年ぶんです。狙ったわけではないのですが、結果として静かに始まって静かに終わる並びになりました。
| 曲 | 作曲家 | 長さ | |
| 1 | [カノン ニ長調](https://karuchatei.com/119/) | パッヘルベル(1653-1706) | 4分17秒 |
| 2 | [四季「冬」第1楽章](https://karuchatei.com/121/) | ヴィヴァルディ(1678-1741) | 1分57秒 |
| 3 | [無伴奏チェロ組曲 第1番 前奏曲](https://karuchatei.com/114/) | バッハ(1685-1750) | 2分17秒 |
| 4 | [トッカータとフーガ ニ短調](https://karuchatei.com/115/) | バッハ(1685-1750) | 9分44秒 |
| 5 | [幻想曲 ニ短調 K.397](https://karuchatei.com/118/) | モーツァルト(1756-1791) | 4分44秒 |
| 6 | [月光ソナタ 第1楽章](https://karuchatei.com/116/) | ベートーヴェン(1770-1827) | 4分08秒 |
| 7 | [ジムノペディ 第1番](https://karuchatei.com/120/) | サティ(1866-1925) | 2分33秒 |
全曲版(YouTube・29分41秒)
数えてみると見えてくること
楽譜をデータとして扱うと、印象で語っていたことに数字がつきます。7曲を同じ物差しで測ってみました。
いちばん驚いたのは、バッハの無伴奏チェロ組曲の前奏曲が、656個の音すべてが単音だったことです。同時に鳴る音が最初から最後までひとつもありません。それなのに、聴いていると和音の進行がはっきり分かります。チェロ1本で和音を弾かずに和音を感じさせる、というのは知識としては知っていましたが、数えてみるとその徹底ぶりに驚きます。
逆にいちばん音が多いのはトッカータとフーガで、143小節に3,651音。1小節あたり25音です。ジムノペディは47小節で282音なので、1小節あたり6音。同じピアノで鳴らしても、曲によって音の詰まり方が4倍違います。
同時に鳴る音の数を平均すると、ジムノペディが2.52声でいちばん厚く、チェロ組曲が1.00声でいちばん薄い。あの静かなジムノペディが、この7曲でもっとも和音の厚い曲だというのは、少し意外でした。左手がずっと和音を刻み続けているからです。
楽譜はどこから
すべてパブリックドメインか、それに準じるライセンスで公開されている楽譜データを使っています。
6曲はMutopia Projectから。ボランティアがクラシックの楽譜をLilyPond形式で作り、公開しているアーカイブです。月光ソナタだけはIMSLPのペータース版のPDFを、楽譜認識ソフトで読み取って音にしました。
カノンはCC BY 4.0、四季「冬」はCC BY-SA 3.0の楽譜を使っています。浄書した方々の名前は各記事に記しました。残りの5曲はパブリックドメインです。
音源はVCSLのスタインウェイBで、これもCC0です。楽曲・楽譜・音源のすべてを、権利のはっきりした素材だけで組みました。
各曲の記事へ
1曲ずつ、別の記事に書きました。作られた経緯、楽譜に書かれていること、そして数えて分かったことを並べています。
- パッヘルベル カノン ニ長調 — 8つの音を28回繰り返すだけの曲が、なぜ飽きないのか
- ヴィヴァルディ 四季「冬」第1楽章 — 楽譜に詩が書き込まれている協奏曲
- バッハ 無伴奏チェロ組曲 第1番 前奏曲 — 656音すべてが単音でした
- バッハ トッカータとフーガ ニ短調 — バッハの作かどうか、まだ決着していません
- モーツァルト 幻想曲 ニ短調 K.397 — 終わりを書いたのはモーツァルトではありません
- ベートーヴェン 月光ソナタ 第1楽章 — 「月光」と名づけたのは本人ではありません
- エリック・サティ ジムノペディ 第1番 — どこへも行かない音楽を、意図的に書いた人
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こちらも同シリーズです。44曲を作品番号順に並べたとき、短調の扱いがどう変わっていくかを追いました。
出典
- Mutopia Project — https://www.mutopiaproject.org/
- IMSLP / Petrucci Music Library — https://imslp.org/
- Versilian Community Sample Library (VCSL) — https://github.com/sgossner/VCSL
小節数・音数・音域・平均同時発音数は、使用した楽譜データから実測した値です。テンポは楽譜データに記録された数値であり、作曲者の指定とは限りません。