こんにちは、歌流茶亭の星海奏です。
クラシック名曲の中身、4曲目です。
冒頭のあの下降音型。おそらく世界でもっとも知られたクラシックの旋律のひとつだと思います。それでいて、この曲が本当にバッハの作品なのかは、今も議論が続いています。
この演奏はサンプリング音源による合成であり、人間の演奏ではありません。 楽譜データを音に変換したものです。
YouTube(9分44秒)
先にお断りしておきます
この曲は本来オルガンのための作品です。足鍵盤で踏む低音と、鍵盤を押しているあいだ減衰しない持続音が前提になっています。
この録音はピアノで鳴らしているので、あの荘厳さは再現できていません。大聖堂に響き渡る音の壁を期待して聴くと、確実にがっかりします。音の運びを確かめるためのもの、と思って聴いていただけたらと思います。
正直に申し上げると、この曲をピアノで出すかどうかは迷いました。それでも入れたのは、音符の配置そのものが面白い曲だからです。
疑いの根拠
疑問が提起されたのは1980年代、音楽学者ピーター・ウィリアムズによってです。以来、専門家のあいだで議論が続いています。
バッハの自筆譜が存在しません。現存する最古の資料は、ヨハネス・リンクという人物が18世紀後半に書き写したものです。バッハの死後の写譜ということになります。
書法にも指摘があります。曲の冒頭が単旋律のオクターブで始まること、平行5度の使い方、和声の進み方など、バッハの他のオルガン曲と比べて例外的な特徴がいくつもある、というものです。
そこから、もともとヴァイオリン独奏のための曲だったものを、誰かがオルガンに編曲したのではないかという説も出ています。冒頭の音型がヴァイオリンで弾きやすい形をしている、という指摘です。
もっとも、反論も相応にあります。バッハの若書きであれば例外的な書法も説明がつく、という立場です。決着はしていません。
私はこの宙ぶらりんな状態が、けっこう好きです。これだけ有名な曲の出自が分からないまま、みんなが平気で演奏している。音楽というのは、そういう雑なところがあっていいのだと思います。
数えてみました
143小節に3,651音。7曲でいちばん音数が多い曲です。1小節あたり25音になります。
同時に鳴る音の数は平均1.54声。3,651音もあるのに、和音はさほど厚くありません。トッカータの部分では走句が単音で駆け抜け、フーガの部分では声部が独立して動くからです。音数の多さは、和音の厚みではなく、音符の細かさから来ています。
音域は36から84までの49音ぶん。ここが、オルガンをピアノで代用したときにいちばん響く制約です。オルガンなら足鍵盤でもっと下まで踏めますし、ストップを変えれば同じ音高でも音色が変わります。ピアノにはそのどちらもありません。
9分44秒という長さは、7曲中で群を抜いています。2位のモーツァルトが4分44秒なので、倍です。
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同じニ短調の曲です。そしてこちらは、曲の終わりを書いたのがモーツァルトではありません。作者が確定しないという点で、奇しくも並びになりました。
出典
- Wikipedia (English), "Toccata and Fugue in D minor, BWV 565" — https://en.wikipedia.org/wiki/Toccata_and_Fugue_in_D_minor,_BWV_565
- 楽譜:Mutopia Project/パブリックドメイン
小節数・音数・音域・同時発音数は、使用した楽譜データから実測した値です。